予実管理をより身近なものへ
「予算は作ったけれど、実績とのズレが大きくて…」
多くの中小企業の経営者や経理担当者が、予実管理に頭を悩ませています。「予算を作ること自体が目的になってしまい、その後の管理が疎かになっている」そんな経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。予実管理は、企業の現状を把握し、将来の成長戦略を立てる上で非常に重要な取り組みです。しかし、その道のりは決して平坦ではありません。
そこで今回は、予実管理が抱える課題を分かりやすく解説し、中小企業でも実践できる具体的なアプローチを、実際の事例や専門家の視点を交えながらご紹介します。特に、リソースが限られた中小企業でも無理なく取り組める方法に焦点を当てて解説します。
予実管理を阻む３つの壁
予実管理を難しくしているのは、単に「数字を追うのが面倒」というだけではありません。そこには、いくつかの構造的な問題が潜んでいます。ここでは、その代表的な３つの壁について見ていきましょう。
1. 予算策定の壁 絵に描いた餅からの脱却
「予算は立てたものの、現実とかけ離れている」「予算策定に時間がかかりすぎる」といった悩みを抱える企業は少なくありません。特に中小企業では、過去のデータが十分に整備されていなかったり、市場の変化に対応できなかったりすることで、現実的な予算を立てることが難しい場合があります。また、予算策定が一部の担当者に偏っていると、現場の実態との乖離が生まれやすくなります。
予算策定を成功に導くポイント
- 過去のデータと現状を分析する
- まずは、過去の売上データや経費データなどを分析し、現状を把握することが大切です。例えば、過去３年間の売上推移をグラフで可視化することで、売上が伸びている時期や、逆に落ち込んでいる時期を特定できます。売上が伸び悩んでいる場合は、顧客層や商品ラインナップ、マーケティング戦略など、様々な角度から原因を探る必要があります。
- 現場の意見を積極的に取り入れる
- 予算策定には、現場の意見を積極的に取り入れることが重要です。営業担当者からは「来期の売上目標」、製造担当者からは「生産計画」、経理担当者からは「経費の見通し」など、各担当者から具体的な数値を収集し、予算に反映させましょう。現場の意見を取り入れることで、より現実的で実行可能な予算を立てることができます。
- ローリング予算を導入する
- 予算は一度決めたら終わりではありません。市場や経営環境の変化に合わせて、予算を定期的に見直すことが重要です。例えば、３ヶ月ごとに予算を見直す「ローリング予算」を導入することで、より柔軟な予算管理が可能になります。ローリング予算は、特に変化の激しい業界や、事業規模が変動しやすい企業に適しています。
2. 実績把握の壁 アナログ管理からの卒業
「実績の把握に手間がかかる」「リアルタイムな実績が把握できない」といった悩みを抱える企業も多いのではないでしょうか。特に中小企業では、Excelなどの手作業で実績を管理している場合が多く、集計に時間がかかったり、ミスが発生しやすかったりします。また、リアルタイムな実績が把握できないと、問題が発生してもすぐに対応することができません。
実績把握を効率化するための方法
- クラウド型会計ソフトの導入
- クラウド型の会計ソフトを導入すると、日々の取引データが自動的に集計されるため、実績把握にかかる手間を大幅に削減できます。クラウド型の会計ソフトを選ぶ際は、自社の規模や業種に合ったプランを選び、必要な機能が搭載されているかを確認しましょう。例えば、中小企業の場合は、簿記の知識がなくても使いやすいインターフェースや、請求書発行機能、経費精算機能などが搭載されていると便利です。
- BIツールを導入する
- BIツールを導入することで、売上データや経費データなどをグラフやダッシュボードで可視化できます。BIツールを選ぶ際は、自社のデータ量や分析目的に合ったツールを選びましょう。BIツールによっては、リアルタイムでデータを更新できるものや、多角的な分析ができるもの、レポート作成機能が充実しているものなどがあります。
- 自動連携を活用する
- 複数のシステムを使っている場合、API連携やiPaaSなどのツールを活用して、システム間のデータ連携を自動化できます。例えば、会計ソフトと販売管理システムを連携させることで、販売データが自動的に会計ソフトに反映され、集計作業の手間を省くことができます。システム連携ツールを選ぶ際は、連携できるシステムの種類や、設定の容易さなどを考慮しましょう。
3. 分析と改善の壁 PDCAサイクルを回すための仕組み作り
「予実のズレを把握しても、どうすれば良いか分からない」「分析結果を業務改善に活かせない」といった悩みを抱える企業も少なくありません。予実管理は、予算と実績を比較するだけでなく、そのズレの原因を分析し、改善策を実行することが重要です。しかし、中小企業では、分析や改善のための専門知識やリソースが不足している場合があります。
予実分析と改善を成功させるためのアプローチ
- 予実分析のポイントを定める
- 予実分析を行う際は、目的を明確にし、分析するポイントを絞ることが大切です。例えば、「売上が予算を下回った場合は、原因を顧客別、商品別、営業担当者別に分析する」といったように、具体的な分析項目を事前に決めておきましょう。分析項目を決める際は、KPI（重要業績評価指標）を設定し、KPIの達成状況を把握できるようにすることがおすすめです。
- 定期的な予実会議を開催する
- 定期的に予実会議を開催し、予算と実績のズレを共有し、原因分析と改善策を検討しましょう。予実会議では、各部門の担当者が集まり、現状の問題点や改善案を議論します。会議では、分析結果に基づき、具体的なアクションプランを策定し、実行に移しましょう。会議のファシリテーターを立て、議論が脱線しないように注意することも重要です。
- 外部の専門家を活用する
- データ分析や業務改善の専門知識が不足している場合は、外部のアナリストやコンサルタントの力を借りることも有効です。専門家を選ぶ際は、実績や得意分野を確認し、自社の課題に合った専門家を選びましょう。専門家との契約形態や費用についても事前に確認することが大切です。
予実管理で成果を上げた企業の実例
- 事例1 クラウド会計ソフトで予実管理を効率化した小売業
- ある小売業では、これまでExcelで予実管理を行っており、集計に多くの時間を費やしていました。そこでクラウド会計ソフトを導入し、日々の取引データを自動的に集計できるようにしました。その結果、集計にかかる時間が大幅に短縮され、よりリアルタイムな予実管理が可能になりました。さらに、クラウド会計ソフトの分析機能を使って、売れ筋商品や利益率の高い商品などを把握できるようになり、商品戦略の見直しにも繋がりました。
- 事例2 BIツールでデータ分析を強化した製造業
- ある製造業では、Excelで管理していた売上データをBIツールで可視化しました。その結果、売れ筋商品や顧客層などを明確に把握できるようになり、より精度の高い販売戦略を立案することができました。また、BIツールを使って、過去の売上データを分析したところ、特定の時期に売上が伸び悩む傾向があることが判明。その原因を調査した結果、需要予測の精度が低いことが分かり、需要予測の見直しにも繋がりました。
- 事例3 専門家のアドバイスで業務改善に取り組んだサービス業
- あるサービス業では、予実分析の結果、経費が予算を大幅に上回っていることが判明しました。そこで、外部のコンサルタントに相談し、業務フローの見直しや無駄なコストの削減に取り組みました。コンサルタントの専門的なアドバイスを受けながら、各部門の業務フローを一つ一つ見直し、無駄なコストを削減。その結果、経費を予算内に抑えることができるようになりました。
まとめ
予実管理は、企業の現在地を把握し、未来への航路を示すための羅針盤のような存在です。今回の記事でご紹介したヒントや方法を活用し、自社に合った予実管理の仕組みを構築することで、より良い経営判断が可能になるでしょう。まずは、自社の現状を把握するところから始めてみませんか。
